「子育て」って何だろう?〜18年を振り返って〜
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今年3月に佐世保市内の高校を卒業し、4月から新社会人として働くことが決まっている息子を持つ母親は、職場で昼休みに、LINEで息子からのメッセージを受信しました。
「18年間お世話になりました。今から行ってきます」
佐世保駅から送信されたと思われるこのメッセージを読んだ母親は、はじめて子育てが終わったのかな、と実感されたそうです。
お子さんはその日、佐世保を離れ、就職先へと旅立ちました。
母親は返事をしようとしましたが、「いってらっしゃい」も変な感じがするし、「頑張れ」だけも何か違うと感じ、結局返信することは出来ませんでした。
子育てが終わったと思えれば、一言返信できるけど、なんとなくそう思えないと感じたそうです。
アプリを使って簡潔にまとめきれないその心の中に溜まったものを、手紙のようにまとめられました。
息子には直接言えないことを「すくすくSASEBO」に投稿していただきました。
長男へ
あなたを身籠った頃は、“こんな絵本を読ませたい”とか“こんなおもちゃで遊ばせたい”と、それはそれはいろんなことを想像しながら出産までをワクワクしながら過ごしました。
生まれた時は、なかなかおっぱいが飲めず、体重も少なく、心配でした。買い揃えて楽しみにしていた絵本やおもちゃ、まさかこれほど興味を示してくれないとは思いもしませんでした。
私は仕事に復帰するため、生後半年で保育園へ通うようになりましたね。首が座るようになってきた頃です。
保育園初日にあんなに泣いていやがった時はどうしようかと思いました。時には病気をして病児保育を探し回ったこともありました。そして病気明け、保育園の先生に預ける時に離れがたいけど泣くのを我慢して私の後ろ姿を見ていましたね。あの時のあなたの表情は今でも忘れることはできません。そのまま職場に向かう間、なんてひどい母親だろうと何度も落ち込みました。
あなたは大きくなるに連れ、私に似たのか、よくしゃべる男の子になりましたね。
「しまじろう」をよく見ていたせいか、女性に話しかける時は、高齢であろうと「おねえさん」と呼びかけるので、近所のおばあちゃん達から人気者で、いつも気にかけてもらえる存在でした。
年長さんの時に弟が生まれると、よく話しかけてくれ、一緒に遊んでくれましたね。
小学生になっても変わらず、弟を大事にしてくれました。でも宿題のプリントを本棚の裏に隠して友だちと遊んでいましたね?溢れ出てきたプリントを見つけた時は驚きました。宿題嫌いのあなた、どんなに隠していても、家庭訪問での先生の話ですべてばれていました。とにかくおしゃべりが好きだから、自ら話しては身を滅ぼしていましたね。
中学生になると、体は大きくなりました。何もケガや病気もなく成長してくれて安心しました。
すぐに友だちと遅くまで遊び、帰宅時間を守らず遅く帰ってきたあなたを、私は叱りましたよね?実はあの時からあなたの顔を見下ろすのではなく、見上げなければならないくらいに背が伸びていたのです。
そして中学3年生になった母の日に、あなたは花を買ってプレゼントしてくれました。突然で最初は何がなんだかわかりませんでしたが、私は気付いたら泣いていました。あの時は本当に嬉しかったのです。
でもこの数年、何もないのはなぜでしょうか?(T^T)
高校生になるとさらに部活、友だちと遊ぶことに力が入っていたようでした。成績はクラスでビリを争うような高校生活でしたが、それでも家では弟の面倒をよくみてくれました。時には反面教師としても頑張ってくれましたね。兄弟仲が良いのは嬉しいことです。これからも仲良くしてくださいね。
部活も最後まで頑張ってくれました。小学校3年生から続けていたスポーツでしたが、最後の年の始めに右肩を故障してしまいましたね。
治すなら手術が必要で、その後リハビリを経て完治するのに一年かかるという診断でした。あなたは手術を回避。患部周りに筋肉をつけるというリハビリを続けながら、試合中は右肩が脱臼してもそのまま走り、隠れて右肩を戻していました。そして自らレギュラーを外れ、他に故障者が出たらそのポジションにいつでも入れるよう準備していたことも知っています。学生最後の試合には出られませんでしたが、試合終了までチームのために頑張っていたことは誇りに思っています。
ただひとつ、今でも私が後悔していることがあります。
あまりにもあなたが楽しそうに過ごしているから、高校を辞めたいとまで考えていたことに気づかなかったことです。
あなたから目を離してたつもりはなかったし、毎日楽しく話をし、心も離れていたとは思っていませんでした。でもあなたは自分の中でいろんなものを抱えていたんですね。両親共働きで、忙しそうだから相談したくてもできなかったと言われた時は、さすがに立ち直れないくらい落ち込んでしまいました。本当にごめんなさい。
あの日は、親子で一晩中話し合いましたね。でもそれからのあなたは見違えるほど精神的にたくましくなったと思います。
高校生最後を締めくくる卒業式は、新型コロナウイルス感染症対策のため縮小されたものになりました。保護者は校舎に入れない、最後のホームルームも見られず残念でした。保護者にとっては、例年通りの卒業式をさせてあげたかったし可愛そうに思いましたが、家に帰ってきたあなたは、“生まれ変わったとしても、これまでと同じ人生をもう一回やり直したい”と言いました。これまで18年、大したサポートもできない親でしたが、その一言で随分報われました。
中学生の頃から大学進学に関心がないあなたは、高校を卒業したら働くと言っていました。本当にその通りになりましたね。
どういう仕事をしたいのか、なかなか決められず、三者面談でも先生を困らせました。ある時急に「大阪に行く」と言い出すあなたに理由をたずねると、「友達が大阪に行くから」と答えました。私は何度頭を抱えたことでしょう。
あなたのとてつもなく漠然とした要望から先生が就職先をいくつか探してくれました。勧めていただいた会社の中から選び、面接を受け、最終的に内定をもらいました。
あなたの力ではなく、これまでたくさんの人に助けられて今があることだけは決して忘れないでください。
これからまったく新しい生活が始まりますが、体だけは大事にしてください。
立派な大工になって、私達の家を建ててくれる日を待っています。
「子育てってなんだろう?」
私達(今の子育て世代)が高校を卒業して、大学進学や就職のため実家を離れる時も、きっと親は同じように心配をしていたのでしょう。
中学生になる次男がいますので、まだまだ子育て世代ですが、長男のことは今までと変わりなく気がかりで、ただただ心配でなりません。
一人暮らしを始めるにあたって、とりあえず引越し先に必要な荷物を整理させていても、Wi-Fi環境を真っ先に気にする長男です。
「無人島に一つだけ持っていけるとしたら・・・?もちろんWi-Fi!」・・・先が思いやられます。もっと大事なものが他にもあるでしょう。
きっと世のお母さん方も、今頃同じ心配をしているのではないでしょうか?
“本当にこの子は大丈夫か?” そして “本当に子育て大丈夫だったか?” と。
新社会人としてきちんとできるのか、毎朝起きられるのか、食事もきちんととれるのか、事故を起こさないか・・・周りに迷惑をかけてばかりではないかと本人が目の前に居ない分、心配する種類と質がこれまでとは変わっただけのような気がします。
でも心配しているうちに、あっという間に長男は結婚し、そして子どもが生まれて・・・と、想像できませんがそうなるのでしょう。
『子育て』というのは、心配を抱えたまま、あるタイミングで我が子がバトンを受け取り、またそこで『子育て』が始まる。きっとそれがずっと続いていくものなのかもしれませんね。